刀剣 と 銃刀法


刀剣を所持するについて厳しい規制があるように誤解している方々を多く見受けます。それは銃砲刀剣類所持等取締法(以下 銃刀法と略す)という一つの法律によって、銃と刀剣が一緒に規制されていることが誤解を生む原因のようです。

ご存知のように銃の所持は公安委員会に許可を申請したのち、更新手続きを含めて煩雑な手続きを要求されます。しかし刀剣の所持については、銃とは別の扱いになっているとも言えます。詳述すると重なっている部分もあるのですが、一般の人には無関係なのでその部分についてはあまり触れないことにします。

銃刀法で規制される要件は「刀剣類」、「所持」、「携帯」です。

平成21年1月5日に改正施行された銃刀法第2条2項によれば、 「刀剣類」とは

第二条
2  この法律において「刀剣類」とは、刃渡り十五センチメートル以上の刀、やり及びなぎなた、刃渡り五・五センチメートル以上の剣、あいくち並びに四十五度以上に自動的に開刃する装置を有する飛出しナイフ(刃渡り五・五センチメートル以下の飛出しナイフで、開刃した刃体をさやと直線に固定させる装置を有せず、刃先が直線であつてみねの先端部が丸みを帯び、かつ、みねの上における切先から直線で一センチメートルの点と切先とを結ぶ線が刃先の線に対して六十度以上の角度で交わるものを除く。)をいう。


 と規定されています。

「刀剣類」とは要約すれば、 刃渡り15センチメートル以上の刀、槍、薙刀、及び刃渡り5.5センチメートル以上の剣、短刀です。 

尚「あいくち」という名称は、刀剣界では外装の一形態を指しますので、これは「短刀」と読み替えてください。
剣とは反りが無く、且つ両刃の形式の刃物です。先年通り魔殺傷事件で問題になったダガーナイフも該当します。

以上に示したように、平成21年1月5日に改正施行された規定により、刃渡り5.5センチ以上の剣、短刀が 「刀剣類」 に含まれることが明文化され、所持及び携帯するには、登録証、或いは所持許可証が必要になりました。

その一方で 15センチメートル未満の槍、薙刀は、従来と同様に登録証を必要とせずに所持できます。15センチ未満の薙刀など、子供の玩具ならいざ知らず見たことはありませんが、条文の解釈をそのまま示しておきます。15センチ未満の槍は珍しくありません。

「所持」とは、所有し自己の支配下に置き、自己が管理している実態がある状態を言います。
自宅などに保管するなどが該当します。

「携帯」とは、直ちに使える範囲に置くことです。
身に付けて外出すること、並びに車の室内やトランクに入れて道路に出ることです。

「所持」は「携帯」より上位の規制概念です。それゆえ「所持」を禁止されていている刃物が「携帯」を許されることはありません。逆にこのあとご説明しますが、ハサミや包丁のように「所持」は禁止されていないが「携帯」を規制されていることはあります。

銃刀法に示された「刀剣類」とは、明文化されているわけではありませんが、人を殺傷することを目的として作られた刃物の総称です。

人を殺傷することを目的として作られた刃物を極力社会から排除し、以って社会の安寧を保持することが銃刀法の立法主旨です。

しかし 人を殺傷することを目的として作られた刃物であっても、古来から伝来し美術品と認められる刀剣類を、一定の法規制の下に所持を認めているのです。

包丁や、そして裁ちバサミも人を殺傷する能力がある刃物ですが、それらは料理や裁縫をすることを目的に作られた道具であり、したがって「所持」を禁止されません。

但し使用目的を自他とも料理に限定すると認識して作られた刃物であっても、その形態及び実質的機能が「刀剣類」に似ている場合には、料理道具の包丁とは認められず「刀剣類」と認定され規制されます。(最高裁判例 平成8年2月13日 刑集第50巻2号236頁)

(最高裁判決の主要部分の原文を以下に示します)

原判決(東京高等裁判所)の認定によれば、被告人が包丁儀式に使用するものとして所持していた本件七本の刃物は、いずれも、刃渡りが約三二・二ないし三三・四センチメートル、柄に近い部分の刀身の幅は約三・五センチメートル、棟の厚みは約〇・四センチメートルで、片面が研磨された鋭利な刃が付けられた、先端の鋭利な鋼鉄(炭素鋼)製の刃物であって、鍔はないが、刀身とほぼ同じ幅の白木の柄に目釘で固定され、白木の鞘に収められており、刀身の刃区(はまち)の部分には小さいながらも和包丁の特徴である俗にアゴと言われる段差があるものの、?(はばき)によりその段差が完全に覆い隠されているというのである。

そうしてみると、右各刃物は、社会通念上「刀」というにふさわしい形態、実質を備えていると認めるのが相当である(長さから言えば俗に言う脇差に当たる。)。

したがって、右各刃物は、いずれも、銃砲刀剣類所持等取締法(平成三年法律第五二号による改正前のもの)三条一項にいう「刀剣類」に当たるとした原判断は、正当である。

なおこの判決は最高裁の裁判官5人が全員一致で判示しています

いっぽう包丁やハサミなども刃物の範疇に包含され、用い方によっては危険ですので、6センチを超える刃物は業務その他正当な理由による場合を除いて「携帯」を禁止されています(銃刀法22条)。


銃刀法二十二条  何人も、業務その他正当な理由による場合を除いては、内閣府令で定めるところにより計つた刃体の長さが六センチメートルをこえる刃物を携帯してはならない



ただし、内閣府令で定めるところにより計つた刃体の長さが八センチメートル以下のはさみ若しくは折りたたみ式のナイフ又はこれらの刃物以外の刃物で、政令で定める種類又は形状のものについては、この限りではありません。


この内閣府令とは銃砲刀剣類所持等取締法施行令(昭和33年3月17日政令第33号 最終改正 平成27年3月18日)のことで、該当条文は第37条です。道路で検問している際に逮捕されるのは、以下に該当する以外の刃物を正当な理由なく「携帯」 していた場合です。


内閣府令 第三十七条   (銃砲刀剣類所持等取締法施行令 第37条)

第二十二条 ただし書の政令で定める種類又は形状の刃物は、次の各号に掲げるものとする。

一  刃体の先端部が著しく鋭く、かつ、刃が鋭利なはさみ以外のはさみ

二  折りたたみ式のナイフであつて、刃体の幅が一・五センチメートルを、刃体の厚みが〇・二五センチメートルをそれぞれこえず、かつ、開刃した刃体をさやに固定させる装置を有しないもの

三  法第二十二条 の内閣府令で定めるところにより計つた刃体の長さが八センチメートル以下のくだもの ナイフであつて、刃体の厚みが〇・一五センチメートルをこえず、かつ、刃体の先端部が丸みを帯びているもの

四  第二十二条 の内閣府令で定めるところにより計つた刃体の長さが七センチメートル以下の切出しであつて、刃体の幅が二センチメートルを、刃体の厚みが〇・二センチメートルをそれぞれこえないもの




刃体の長さの測定の方法については、銃砲刀剣類所持等取締法施行規則 
(平成25年6月14日 改正) 第102条 に記載されています。


銃砲刀剣類所持等取締法施行規則

第102条
1法第22条の内閣府令で定める刃体の長さの測定の方法は、刃物の切先(切先がない刃物又は切先が明らかでない刃物にあつては、刃体の先端。以下この条において同じ。)と柄部における切先に最も近い点とを結ぶ直線の長さを計ることとする。

2次の各号のいずれかに該当する刃物については、前項の規定にかかわらず、当該各号に定める方法により計ることとする。

①刃体と柄部との区分が明らかでない切出し、日本かみそり、握りばさみ等の刃物 刃物の両端を結ぶ直線の長さを計り、その長さから八センチメートルを差し引く。

②ねじがあるはさみ 切先とねじの中心とを結ぶ直線の長さを計る。

3刃体の両端に柄がついている等のため前二項に規定する測定の方法によりがたい刃物にあつては、前二項の規定にかかわらず、刃先の両端を結ぶ直線の長さを計ることとする。

4刃先の両端を結ぶ直線の長さが第1項又は第2項に規定する測定の方法により計つた刃体の長さより長い刃物にあつては、第1項又は第2項の規定にかかわらず、刃先の両端を結ぶ直線の長さを計ることとする



いっぽう ナイフは微妙な問題を孕んでいます。現行法でも第2条2項によって、飛び出しナイフは「所持」を禁止されています。
一般的にはナイフは日常的な用を足すための多目的切断道具ですが、両刃のダガー (dagger) と呼ばれるナイフは、西洋において対人武器として製作された刃物です。
それゆえ無差別殺傷事件を契機に「剣」の範疇に含まれるとして「所持」を禁止されることになりました。

この「刀剣類」に該当する刃物を合法的に所持するには、その刀剣類に「登録証」が交付されているか(銃刀法第3条6項)、
或いは銃と同じように、特定の個人が特定の「刀剣類」を所持する事についての「所持許可証」を、公安委員会から交付されなければなりません(銃刀法第3条3項)。

登録証を交付されている刀剣類ならば、誰でも所持できます(銃刀法 第3条6項)。 警察の許可は必要ありません。

所持許可証による所持の例は極めて稀で、私は長く刀剣研磨の仕事をしていますが、その実物を見たのは3回だけです。
 
刀剣類を新たに買ったり、相続、贈与された人がなすべき法律上の義務は、登録証を発行した都道府県の教育委員会宛に、所有者変更届出書を20日以内に郵送するだけです(銃刀法17条)。 
所有者変更届けを出す義務は、新たに所有権を得た人にあります。

所有者変更届出書の書式は特に規格は無く(昭和33年3月28日文委美第8号通知)、はがき或いは便箋に「所有者変更届出書」と表題をつけ、登録証に記載されている事項、相続或いは譲渡など所有者変更の原因、譲り受けた年月日、そして自分の住所氏名を書き込み、認印を押して投函すればよいのです。  

旧所有者名欄については、昭和33年3月28日文委美第8号通知  第Ⅱ項4号(3)(ホ)において廃止する旨が明記されており、旧所有者の判明するものについては、備考欄に記載するものとしています。

それゆえ所有者変更届出書には旧所有者名を、必ずしも記載する必要はないのですが、都道府県によっては旧所有者の住所氏名を問い合わせてくることが有りますから、判明する場合には予め記入しておく方が良いかと思います。

県によっては、「所有者変更届出書」を受け付けた旨の通知が来る事もありますが、多くは何の返事も無いのが普通です。それゆえ届出が受理されたかどうか心配な場合は、教育委員会に電話で確認する必要があります。

所有者変更届出書を20日以内に提出することを怠ると、罰則規定があります(銃刀法32条3項)。

登録証を交付された刀剣でも、仕込み杖など刀剣以外の物と誤認させるような方法で変装した外装に納めて所持する事はできません(銃刀法第3条1項6号)。

登録証を交付された刀剣であっても、正当な理由による場合を除いては、携帯し又は運搬する事は規制されています(銃刀法21条)。

登録を受けた刀剣類の譲渡、保管の委託、運送する場合は登録証と共にしなければならないことになっています(銃刀法18条1項、2項)。


  罰則について

最後に罰則規定について触れておきます。銃刀法における刑罰は軽くはありませんが、法令を知って遵守すれば良いのです。


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無登録の刀剣類を所持すると、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金になります(銃刀法31条16 第1項1号)。

但し登録証があっても、つえその他の刀剣類以外の物と誤認させるような方法で変装された刀剣類を所持すると、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金を科せられます(銃刀法31条16 第1項1号)。
仕込み杖がよく知られていますが、その他には一見したところキセルや矢立、或いは笛にしか見えない短刀を見たことがあります。これらは登録証があっても、そのままでは所持できません。


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登録を受けた刀剣類を所持する場合でも、正当な理由がある場合を除いては、刀剣類を携帯し、又は運搬すると、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金になります(銃刀法31条18第2項)。


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登録を受けた刀剣類を譲り受け、若しくは相続により取得した時、20日以内にその旨を当該登録の事務を行つた都道府県の教育委員会に届け出ないと、1年以下の懲役又は30万円以下の罰金になります(銃刀法32条3項)。


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登録を受けた刀剣類を譲り渡したり譲り受けた場合、登録証とともにしないと、6月以下の懲役又は20万円以下の罰金になります(銃刀法33条1項)。


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模造刀が売られているのをよく目にします。模造刀とは、ジュラルミンなどで作られ、かつ刀剣類に著しく類似する形態を有する物を言いますが、玩具であり銃刀法の規定による登録を必要としません。
しかし業務その他正当な理由による場合を除いて、模造刀を携帯すると20万円以下の罰金になります(銃刀法35条2項)。


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刀剣類を発見し、又は拾得した者は、すみやかにその旨をもよりの警察署に届け出ないと、20万円以下の罰金になります
(銃刀法35条2項)。

法律用語としての 「すみやかに」 の意味は、「直ちに」よりは時間的即時性が弱く、「遅滞無く」よりは時間的即時性が強い、という位置づけで両者の中間とされています。

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刀剣類を携帯し、又は運搬する者は、登録証を常に携帯しないと 20万円以下の罰金になります(銃刀法35条2項)。


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なお銃刀法の細かい規定など一般のかたはご存知ないでしょうが、取調べを受けた際に法令を知らなかったと主張しても、刑法38条3項を根拠に刑罰を科せられます。

刑法38条3項  法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。ただし、情状により、その刑を減軽することができる。

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