刀剣の手入れ法


刀は薙ぐよりも、突く方が危険で致命傷になります。それゆえ刀の手入れをする場合は、人を遠ざけ、特に前方に人がいる場合には抜かないようにして下さい。子供がいるところで手入れをする等は論外です。

抜き身のまま部屋から部屋へ移動するなどはもっとも危険です。戸の影から家人が急に現れるかもしれないからです。

日本刀は、玉鋼(たまはがね)と呼ばれる極めて純良な鉄で作られていますので、ふだん身の回りにある鉄に比べて、さびにくい性質があります。しかし鉄であることに変わりはないので、何ヶ月も手入れをしないと、さびることがあります。

刀剣の保存のための手入れは通常、毎月一度必要です。新しく白鞘を作ったばかりの時は、半月に一度の頻度で手入れをして下さい。新しい鞘は刀に塗られた油を吸い取り、その部分の油が乾くためです。

手入れの時に用いる「打ち粉」の主成分は、、微細な砥石の粉末であり、さびを防ぐ能力は全くありません。刀の表面に打ち粉をつけたまま鞘に納めないようにお願いします。

刀の表面に油を塗ることの意味は、油膜によって空気中の湿気を遮断するためです。時々油を塗り直すことの意味は、油膜と刀の表面の間に残存していた湿気を排除することと、その際打ち粉を用いることによって、微細なさびを除去する目的があります。

刀剣油は昔は植物性のものが大部分でした。現在でも椿油は使われていますが、注意しなければならないことは品質の悪い植物性刀剣油は、時間が経つと酸化して茶色に変性し、ニスのように刀身に膠着するものがあることです。経験のある専門家に相談する事をお勧めします。
保管場所としては、湿気のある場所、樟脳の入っているタンスはさびますので、絶対に避けて下さい。ひどく乾燥している場所は、刀身には最適ですが、白鞘が割れたり鯉口が収縮して入らなくなる事があります。

白鞘の材質は、朴(ほう)の木で、柔らかく、且つ湿気に敏感に作用する機能を持っています。それゆえ湿気によって伸縮しますので、湿気のある天候では鯉口がゆるくなり、乾燥している季節では鯉口がきつくなります。鯉口がゆるくなり、刀が抜けやすくなると危険ですので必ず袋に入れ、付属しているひもを締め付けておいて下さい。


手入れ順序  
 
手入れをするときは、柄(つか)と、はばきをはずしてください。はばきの下も研いであり、手入れの必要があるためです。

面倒なためか、はばきをはずさずに手入れをなさる方が時折いますが、そのような場合、はばき上の地の部分に拭った時の横びけが立っていることが多いものです。

手入れの最中に会話をしたり、くしゃみをして、刀に唾を飛ばさないように御注意下さい。唾が飛びますと、粟粒くらいの大きさの錆が生じます。
ぬぐい紙で刀身の打ち粉を拭き取るとき、必ず手前から切っ先に向かってぬぐって下さい。さもないと指先に怪我をします。


  1 拭い紙で刀の油を大まかにぬぐい去る。

  2 打ち粉を刀の表面全体にはたく。

  3 別の拭い紙で打ち粉をぬぐい去る。

  4 (2)と(3)を三回位繰り返し、完全に古い油をぬぐい去る。

  5 新しい油をむらなく塗る。 滴るほど塗る必要はありません。
 
  6 刀を白鞘に納める。  


以上で終わりです。手入れは難しいものではありません。

手入れの際に用いる拭い紙には、古来から奉書紙が使われてきました。
しかし 奉書紙はご存知のように手漉きの和紙であり、微細な木の皮や石が入っていて、拭った際にかなり強いヒケが刀身に入ることがあります。

そのうえ手垢と汗や打ち粉で真っ黒になった奉書紙を使っているかたがいらっしゃいますが、刀に良くないことは申すまでもありません。さりとて奉書紙は使い捨てにするほど安価ではありません。

現代はティシュー紙があり、安くて使い捨てが出来る上に、ヒケが立つおそれが無いのでおすすめします。

手入れの際に、そのつど打ち粉を用いずに、刀剣油を浸した布で刀身全体をむら無く撫で付けて、塗り重ねるだけでも防錆に有効です。

打ち粉を用いて刀剣油を完全に拭い去ることは、鑑賞する場合を除いて特に必要ありません。
しかしこの場合も、はばきをはずすことが必要です。

一番良くないのは、何ヶ月も手入れをせずにしまい込んでおくことです。その場合刀身を保護している油膜が部分的に斑となって乾き、そこに錆を生じます。

保管場所の環境と使用した油にもよりますが、日本の気候のもとでは、通常2ヶ月を超えて手入れをしないと、一般のかたが気づかない程度のごく小さな錆を生じ始めるようです。

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